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【損保数理】2021 問題1 Ⅲ

問題

Lundbergモデルにおいて、期首サープラスはu_0、クレーム件数は平均10ポアソン分布、個々のクレーム額の分布の確率密度関数\displaystyle{f(x)=\frac{4}{\Gamma (3.5)} e^{-4x} (4x)^{2.5} (x \geq 0)}に従うとき、Lundbergの不等式は、期首サープラスu_0、破産確率\epsilon (u_0)、調整係数Rを用いて下式のとおり表される。
\epsilon(u_0) \lt e^{-Ru_0}
また、期間[0,t]で受け取る収入保険料総額は、当該期間でのクレーム累計額の期待値\mu_tに安全割増率\thetaを考慮したP_t=(1+\theta)\mu_tにて表されることとする。
u_0=8のとき、Lundbergの不等式を用いて保険会社にとって最も保守的に評価した破産確率をe^{-2}まで許容することとした場合、必要な安全割増率\thetaを求めよ。

 

ガンマ分布の期待値、積率母関数X \sim \Gamma(\alpha, \beta)のとき、 \displaystyle{E(X)=\frac{\alpha}{\beta}\\ M_X(t)=\left (\frac{\beta}{\beta-t} \right)^{\alpha}}
調整係数が満たす方程式(クレーム総額が複合ポアソン分布に従うとき) M_X(r)=1+(1+\theta)E(X)r

 

解答

Lundbergの不等式を用いて保険会社にとって最も保守的に評価した破産確率をe^{-2}まで許容するので、

e^{-Ru_0}=e^{-2}

u_0=8より、

e^{-R \cdot 8}=e^{-2} \\ 8R=2 \\ R=0.25

 

ここで、クレーム総額は複合ポアソン分布に従うから、調整係数Rが満たすべき方程式はM_X(R)=1+(1+\theta) E(X) Rとなる。

X \sim \Gamma(3.5,4)より、\displaystyle{M_X(R)=\left(\frac{4}{4-R} \right)^{3.5}, E(X)=\frac{3.5}{4}=0.875}だから、

\displaystyle{\left(\frac{4}{4-0.25} \right)^{3.5}=1+(1+\theta) \cdot 0.875 \cdot 0.25 \\ \theta=0.16}

【損保数理】クレーム総額の分布関数の計算 移動ガンマ分布近似

クレーム総額の分布関数の計算のより一般的な方法として、ガンマ分布に近似させる方法があります。

G(x:\alpha,\beta)を、パラメータ\alpha, \betaを持つガンマ分布の分布関数としましょう。

\displaystyle{G(x:\alpha, \beta)=\int_{0}^{x} \frac{{\beta}^{\alpha}} {\Gamma(\alpha)} t^{\alpha} e^{-\beta t}dt}

 

ここで、このガンマ分布をx_0だけ正の方向に移動させた分布関数G(x-x_0:\alpha, \beta)を考え、これを移動ガンマ分布と言います。

 

クレーム総額Sを移動ガンマ分布で近似するとき、E(S),V(S),E(\{S-E(S)\}^3)が移動ガンマ分布の期待値、分散、3次積率と等しいとして近似します。

公式としてまとめると次の通りとなります。

移動ガンマ分布近似 \displaystyle{E(S)=x_0+\frac{\alpha}{\beta} \\V(S)=\frac{\alpha}{{\beta}^2} \\ E(\{S-E(S)\}^3)=\frac{2\alpha}{\beta}}

【損保数理】クレーム総額分布

一定期間内に発生するクレーム件数を確率変数N、そのうち、i番目のクレームのクレーム額を確率変数X_i (i=1,2,・・・.Nと表すと、一定期間内のクレーム総額を表す確率変数Sは、

S=X_1+X_2+・・・+X_N

となります。このとき、Sの期待値、分散、積率母関数はどのようになるでしょうか。

 

話を簡単にするために、以下のような仮定を置きましょう。

① X_1,X_2,・・・,X_Nは、同一の分布に従う。

② N,X_1,X_2,・・・,X_Nは、互いに独立である。

 

それでは、期待値を求めてみましょう。以下の公式を使います。

期待値と条件付き期待値の関係E(S)=E_N(E_S(S|N))

これより、

E(S)=E_N(E_S(S|N))=E_N(N \cdot E(X))=E(N)E(X)

ただし、2つ目の等号では、仮定を利用して式変形をしています。

 

次に、分散を求めてみましょう。以下の公式を使います。

分散と条件付き分散の関係 V(S)=E_N(V_S(S|N))+V_N(E_S(S|N)

これより、

V(S)=E_N(V_S(S|N))+V_N(E_S(S|N)\\=E_N(N \cdot V(X))+V_N(N \cdot E(X))\\=E(N)V(X)+V(N)E(X)^2

ただし、2つ目の等号では、仮定を利用して式変形をしています。

 

最後に、積率母関数を求めてみましょう。期待値と条件付き期待値の関係を使って、

M_S(t)=E(e^{tS})\\=E_N(E(e^{tS}))\\=E_N(M_X(t)^N)\\=E_N(\exp (N \cdot \log M_X(t)))\\=M_N(\log M_X(t))

 

以上の3つをまとめると、

クレーム総額分布 E(S)=E(N)E(X)\\V(S)=E(N)V(X)+V(N)E(X)^2\\M_S(t)=M_N(\log M_X(t))

【損保数理】エクセス方式

損害保険では、損害の一部を被保険者に自己負担させる引き受けがよく行われます。今回はその中で、エクセス方式について説明します。

 

エクセス方式では、免責金額(エクセスポイント)\alpha支払限度額(カバーリミット)\betaを設定します。

これは、クレーム額が免責金額以下だと保険金が支払われず、クレーム額が免責金額より大きくなると、支払限度額を上限に保険金が支払われることを意味します。

式に表すと次の通りです。

 

クレーム額をxとする。

0 \leqq x \leqq \alphaのとき、   保険金支払額なし

\alpha \leqq x \leqq \alpha+\betaのとき、保険金支払額x-\alpha

\alpha+\beta \leqq xのとき、    保険金支払額\beta

 

例えば、免責金額1億円、支払限度額2億円のとき、

クレーム額が0.5億円のとき、保険金は支払われません。

クレーム額が2億円のとき、保険金支払額は2-1=1億円です。

クレーム額が5億円のとき、保険金支払額は2億円です。

 

それでは、エクセス方式を導入したときの、保険金支払額の期待値を求めてみましょう。ここでは、保険金支払額X確率密度関数f_X (x)とします。

0 \leqq x \leqq \alphaのときは、保険金支払額は0なので、期待値は、

\displaystyle{\int_{0}^{\alpha} 0 \cdot f_X (x) dx=0}

となります。

 

\alpha \leqq x \leqq \alpha+\betaのときは、保険金支払額はx-\alphaなので、期待値は、

\displaystyle{\int_{\alpha}^{\alpha + \beta} (x-\alpha)f_X (x) dx}

となります。

 

\alpha+\beta \leqq xのときは、保険金支払額は\betaなので、期待値は、

 \displaystyle{\int_{\alpha + \beta}^{\infty} \beta f_X (x) dx}

となります。

 

以上より、エクセス方式を導入したときの保険金支払額の期待値は、

\displaystyle{ 0+\int_{\alpha}^{\alpha + \beta} (x-\alpha)f_X (x) dx+ \int_{\alpha + \beta}^{\infty} \beta f_X (x) dx=\int_{\alpha}^{\infty} \min\{x-\alpha, \beta\}f_X (x) dx}

と表されることが分かります。

エクセス方式の保険金支払額の期待値\displaystyle{\int_{\alpha}^{\infty} \min\{x-\alpha, \beta\}f_X (x) dx}

【数学】2022 大問1 ⑸

問題

未知の母数\thetaを含む以下の確率密度関数f(x;\theta)を考える。

f(x;\theta)=\dfrac{1}{6}\exp\left(-\left|\dfrac{x}{3}-\theta\right|\right) 

いま、この分布を母集団分布とする母集団から標本X_1,X_2を抽出した。

⑴統計量Sは、定数\alphaを用いて、\alpha X_1+\dfrac{1}{4} X_2の形で表される\thetaの不偏推定量である。このとき、\alphaの値を求めよ。

⑵統計量Tは、定数\beta_1,\beta_2を用いて\beta_1 X_1+\beta_2 X_2の形で表される\thetaの不偏推定量のうち最も有効な推定量である。このとき、\beta_1,\beta_2を求めよ。

 

公式

X \sim Laplace(\mu,b)のとき、

f(x;\theta)=\dfrac{1}{2b} \exp \left(-\dfrac{1}{b} \left|x-\mu \right| \right)

E(X)=\mu,V(X)=2b^2

 

解答

X_1,X_2 \sim Laplace(3\theta,3)より、E(X_1)=E(X_2)=3\theta

統計量S\thetaの不偏推定量より、

E\left(\alpha X_1+\dfrac{1}{4} X_2\right)=\theta

ここで、

E\left(\alpha X_1+\dfrac{1}{4} X_2\right)

=E(\alpha X_1)+E\left(\dfrac{1}{4} X_2\right)

=\alpha E(X_1)+\dfrac{1}{4} E(X_2)

=\alpha \cdot 3\theta +\dfrac{1}{4} \cdot 3\theta

=\left(3\alpha +\dfrac{3}{4}\right)\theta

よって、3\alpha+\dfrac{3}{4}=1

\alpha=\dfrac{1}{12}

 

統計量T\thetaの不偏推定量より、

E\left(\beta_1 X_1+\beta_2 X_2\right)=\theta

ここで、

E\left(\beta_1 X_1+\beta_2 X_2\right)

=E(\beta_1 X_1)+E\left(\beta_2 X_2\right)

=\beta_1 E(X_1)+\beta_2 E(X_2)

=\beta_1 \cdot 3\theta +\beta_2 \cdot 3\theta

=(3\beta_1+3\beta_2)\theta

よって、

3\beta_1+3\beta_2=1

\beta_1+\beta_2=\dfrac{1}{3}

 

また、統計量Tは、\thetaの不偏推定量のうち最も有効な推定量より、\beta_1+\beta_2=\dfrac{1}{3}の条件の下で、Tの分散が最小となる。

ここで、X_1,X_2は独立より、

V(\beta_1 X_1+\beta_2 X_2)

=V(\beta_1 X_1)+V(\beta_2 X_2)

=\beta_1^2 V(X_1)+\beta_2^2 V(X_2)

=\beta_1^2 \cdot 18+\beta_2^2 \cdot 18

=18(\beta_1^2+\beta_2^2)

\beta_1+\beta_2=\dfrac{1}{3}の条件の下で、これが最小となるのは、\beta_1=\beta_2=\dfrac{1}{6}のとき。